

― 相続土地国庫帰属制度と“モラルハザード”の本質 ―
「相続土地国庫帰属制度」という新しい仕組みを聞いて、
「これでやっかいな土地から解放される!」と感じる方は少なくありません。
しかし、その考え方には大きな誤解があります。
実はこの制度の根底には、“モラルハザード”を防ぐための厳しい要件が設けられているのです。
■ モラルハザードとは何か
法務省の公式サイトでは、次のように説明されています。
管理コストの国への転嫁や、土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件を設定し、法務大臣が審査を行う(帰属法第2条第3項、第5条第1項)。
つまり、
「どうせ国が引き取ってくれるから管理しなくていい」
「負担金を払えば放棄できる」
といった安易な発想を防ぐことが、この制度の設計思想にあります。
■ 国が引き取れない土地とは
制度では、「通常の管理や処分に過分の費用や労力を要する土地」は対象外です。
また、土地を引き取る際には、10年分の管理費用に相当する負担金の納付が求められます。
(加えて、申請時には土地1筆あたり1万4,000円の審査手数料も必要です。)
国は今後“半永久的”にその土地を管理する立場に立ちます。
だからこそ、できるだけ管理コストを軽くできる土地しか受け取らないのです。
■ 実際の相談現場では…
弊社にも、制度利用を希望する相談が増えています。
しかし、ほとんどの方が「条件を満たせば、負担金さえ払えば手放せる」と誤解されています。
実際には、そう簡単ではありません。
手放したいとされる土地の多くは、
•建物が朽ちている
•産業廃棄物が不法投棄されている
•樹木や竹が生い茂っている
など、長年放置されてきたケースが大半です。
中には「相続したけど一度も現地を見たことがない」という方もいます。
そのような土地を国が容易に引き取るとは考えにくいのです。
■ “国の立場”に立って考える
もしあなたが国(管理者)の立場だったら――
これから長期にわたり管理する土地を選ぶ際、どう考えるでしょうか。
•擁壁が古く、破損すれば隣地に影響を及ぼすような土地
•高低差があり、補修が必要な法面(のりめん)を抱える土地
•竹や樹木が繁殖しやすく、公道や住宅地に枝葉が侵入する土地
これらはすべて管理リスクの高い土地です。
したがって、伐採だけでなく「根から除去」「補強」「清掃」など、
引き渡し前に十分な整備が求められるのは当然のことです。
実際、見た目は更地でも、承認前に審査期間中に生息した雑草の伐採を指示されるケースもあります。
■ 私が相談者に伝えていること
弊社は相談を受けても、すぐに受注することはありません。
まずはこのモラルハザードの考え方を丁寧に説明し、
依頼者自身に「国の立場」から制度の趣旨を理解してもらうよう努めています。
「とにかく早く手放したい」「管理なんてもうしたくない」
そうした安易な考えで制度を利用しようとする方のご依頼は、
申し訳ありませんが、お断りすることもあります。
なぜなら、この制度は“逃げ道”ではなく、
「最後の手段として正しく利用するための仕組み」だからです。
■ まとめ
相続土地国庫帰属制度は、
本来「真に管理不能な土地を整理し、社会全体の負担を軽くする」ための制度です。
「負担金を払えば解放される」という考え方は、
その趣旨を損ない、制度の信頼性を揺るがすことにつながります。
土地を手放すことは“終わり”ではなく、
次の世代へ責任ある形で引き継ぐための“整理”の一歩です。
制度の理念を正しく理解し、誠実に向き合うことこそが、
所有者としての最後の責任だと私は考えています。